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2. 宗谷岬へ - 北海道の旅

北海道の快適な道

実はハルコもかなり真剣なサイクリストであり、2004年8月の宗谷岬へは同行することになった。稚内世界平和の鐘支部の会員が稚内空港で丁重に出迎えてくれ、宗谷岬まで私達を送り届けてくれた。キャリーバッグからジャイアントのMTBのパーツを丁寧に広げ、バイクショップから何キロも離れた場所で分解した自転車をまた組み立てたりするのは初めての経験だった。

岬という場所は夏には緑が茂り、暖かい場所である。しかし、荒涼感や孤独感は常に存在し、フレームにホイールを差し込んだり、他のパーツを組み立てたりしても依然として沸き上がってくるのであった。宗谷岬には世界平和の鐘と共に、他の平和関連のものが寄贈されていて、その中には、ロシアの戦闘機に数年前に撃ち落とされたとされる韓国機007への記念品も含まれていた。ボーイング747機の翼を型取った彫刻はオホーツク海の強くなっていく風を受けていた。

岬にかかる雲がどんどん黒くなり、雨がポツポツと降り始め、世界平和の鐘の音で我に帰った私達は少し急ぐ事となった。思い起こせば2日前に東京で、世界平和の鐘をニュージーランドに寄贈してもらうという契約書にサインをしていた。サインをするということは、長距離の自転車旅行を走破するという約束を意味した。しかし、佐多岬までの長い道のりをずっとこぎ続けられるだけの強さと運はあるのだろうか?

岬に沿って走り、小さくてちょっと寂しい漁村に辿り着いた。漁村の住人達は何百年も前からこの危険な魔の海から生活の糧を得てきた。ここはまた、日本とロシアが境界を争っている海であり、日本の漁船がしょっちゅう拿捕される場所でもある。これもまた現実かつ厳しい日本の姿であり、世界の最先端技術の中心である東京や大阪、または写真集に美しくページを飾る日本の寺社仏閣や桜の花などの日本のイメージとはかけ離れたものである。

私は、ギアをガチャガチャと変え、母国の地を快走してずっと先へ行っているハルコの後ろを追いかけた。北海道は日本の4つの主要な島の中でも最も人口の少ない島であり、快適な走りが約束されているようなものだった。

しばらくすると地元の人達から「頑張ってください」と応援が聞こえてきた。時には「日本に来てくれてありがとう!ここでツーリングしてくれてありがとう!」という励ましも受けることがあった。

また、オートバイでツーリングしているモータリスト達にも歓迎された。綺麗に飾られたハーレー・ダビッドソンをあちらこちらで見かけた。北海道では特に二輪車に乗っている人同士は誰でも挨拶を交わし、最も遅いレーンでペダルを漕いでいる人に対しても同様であった。

私達のレクリエーション・マウンテンバイクは、ニュージーランドをも旅行できるように26 x 1.5 インチのスペシャライズド製Nimbusツーリングタイヤを設えてあり、舗装道を走るのにも、デコボコした道でも十分に耐えうるものであった。北海道の西岸を札幌へ下り、それからニュージーランドの北島の中央同様、火山帯となっている箇所を通過しながら小樽へ(ダニーデンの姉妹都市)、そして函館へと向かった。

ニュージーランドの寒い夜に、糸や定規を使って距離を計測しながら地図を眺めていた頃は、日本での自転車旅行はあり得ない夢のように感じられた。しかしながら、8月初旬の夕方、暗くなった頃に宗谷岬から42キロ離れた富士見という小さな村の民宿「メイロード」に辿り着いた。ご主人達の「ようこそ!」という大歓迎はロシアにまで聞こえたかもしれない。前にも泊まったことがあったのでヨシオさんとヨウコさん夫妻は再会をとても喜んでくれた。

古風な趣のある民宿のほぼ垂直の階段を上がったところが私達の今晩の寝床である。(西洋人の足にまずサイズが合わないのでスリッパは危険を考えて履かない方が良い)ヨウコの素晴らしい料理、夫婦の力強い連帯感、そして地元のタフな漁師の男達と一緒に近くの温泉に浸かる体験は実に贅沢な事であった。

ヨウコは夕飯にフグをご馳走してくれた。初めてのフグに最初は箸をもてあそびながら躊躇していた。きちんと調理されたものでなければ死んでしまう程の毒をもっていると聞いたことがあったからだ。私の緊張している様子にヨウコは笑い、自分の命を彼女に託しながら実にたくさんのご馳走を堪能することができた。

メイロードを出発するのは本当に不承不承だった。九州の最南端までは、北海道北部からはゆうに3500キロはある。『あなたたちが、佐多岬に着く頃にはここには初雪が降っているでしょうね』。ヨウコはそう言って一人ずつぎゅっと抱きしめてくれた。

[1. はじめに - そして、世界平和の鐘のこと] [3. 満足な自転車放浪生活]

last modified:27, 06, 2008